日本橋
「お江戸日本橋七つ(現在の午前4時頃)立ち」の唄にもあるように、まだ夜の明けきらない早朝に、参勤交代の大名行列が江戸を発ち、日本橋を渡りはじめている様子が描かれています。
日本橋は東海道をはじめとする五街道の起点でしたが、ここで、大名行列は旅のはじまりを示すモチーフとして描かれています。
その行列を避けるかのように足を速める魚売りや青物売りの姿は、日本橋近くの魚市場や神田の青物市場で仕入れた者たちでしょう。
右手の橋のかたわらには幕府の法令などを掲示する高札場(こうさつば)も描かれ、日本橋という場所を特徴づける要素がきちんと描きこまれています。
まだ夜の帳(とばり)が残るかのように、画面の上あたりの空の色は濃い藍(あい)色で摺(す)られていますが、その下に棚引く紫の雲や、地平線の近くの赤い色などは、これから明けようとする空の表情を実にたくみに表現しています。
画面手前の開け放たれた木戸から、日本橋をのぞき見せるという趣向も斬新です。江戸の町々の木戸は夜間には防犯のために閉じられ、朝になれば開けられたのですが、
この図ではたんに朝の到来を示すだけではなくまるで55枚のシリーズの幕開けを告げているかのようです。