04 神奈川 (台之景)


 神奈川宿で絵になる場所といえば、宿場のおよそ西半分にあたる「台」と呼ばれるあたりだった。 現在でこそJR横浜駅北側のビルが林立している辺りだが、かつては緩やかな坂を上った台地となっており、 すぐそばまで海岸が迫っていたために、絶好の眺望が得られた。

 広重が描いたのも、まさにそうした風景にほかならない。画面右手は街道が険しい坂道として描かれていて、坂に沿って立ち並んだ茶屋の前では、茶屋の女が通行く男たちの袖を引いている。『江戸名所図会』の挿絵にも、 客を勧誘する茶屋女の姿は描かれているが、広重は彼女たちの強引さもいささか誇張したようだ。 しかし、そのことで画面に活気が出てきたのも間違いない。彼らの手前には、巡礼の親子や、厨子(ずし)を背負って諸国を遍歴する六部が、 坂を上る姿も描き添えられ、街道らしい風情も高めている。

 左手に広々とした海が開けた様を配したところ、また、遠く水平線に向かって船を少しずつ小さくなるように描いて遠近感を出したところなど 2枚前の「品川」と同じ絵づくりがなされているが、この図ではいささか規則正しすぎるほどの配置のしかたになっている。 一番遠くの半島状に見える陸地は本牧、その手前に見える二つの断崖は野毛であると考えられている。