三嶋
三島宿は伊豆国で唯一の東海道の宿場です。ここは、伊豆国の1の宮で源頼朝が源氏の再興を祈願して厚い信仰を寄せたことでも有名な
三嶋大明神(現・三嶋大社)の門前町でもありました。境内の南に位置する大鳥居は、旧東海道に面しているのです。
『東海道名所図会』の挿絵を見ると、街道をはさんで鳥居の向かいに宿場の人家が軒を連ねている様が描かれていますが、
広重がこの図で描いているのは、そうにぎした門前の賑わいの光景ではなく、副題に「朝霧」とあるように、朝まだき、
霧に包まれた街道を旅人たちが行き来する情景です。大鳥居や、画面右方の玉垣や社殿の一部らしき屋根、左方に向かって小さくなっていく家並みは、みな藍(あい)と薄墨の濃淡のシルエットとなっています。
画面左方の遠ざかる旅人たちの姿も、霧にさえぎられています。浮世絵版画は一枚一枚手作業で摺られ、また摺師によって絵に対する理解も異なるからでしょうか、ぼかしかたは、同じ絵でもかなり差が出ることがあります。
「三島」の場合、この三人の旅人たちの輪郭をくっきりと摺ったものもあるのですが、この図のように、霧の中に溶け込んでいくようにぼかしたもののほうが、霧深い朝の風情と'空間の奥行きがよく出ているように思います。
画面中央のひとかたまりの旅人たちは、輪郭もはっきりと、明るい色で目立つように描かれています。重かごかき労働で汗をかく駕龍昇の二人はともかくとして、馬のかっは背に揺られる旅人が合羽にくるまっている様(これは一頭の馬に客一人と20貫目まのhソかけでの荷物を載せる乗掛といむしろう運びかたです)や'体に延を巻き付けた馬子の姿からは、早朝の寒さが伝わってきます。
三島宿では箱根越えを終えた旅人、あるいは箱根越えを明日に控えた旅人が宿をとりました。このひとかたまりの旅人たちは東に向かっていますので、きっと、三島宿を朝早-出て、これから箱根路へと向かうところなのでしょう。