28 袋井 (出茶屋ノ図)
かつて袋井宿があったのは現在の静岡県袋井市の中心部。この宿駅は江戸、京都のいずれから数えても27番目で、宿駅の順で見たときに東海道の真ん中にあたる。
『東海道名所図会(ずえ)』や道中案内の類(たぐい)を見ても、とりたてて絵にできそうな名所や旧跡が出ていなかったからだろうか、「出茶屋ノ図」と副題にあるように、宿場外れにあって、旅人がしばしの休みをとる茶屋の風俗が描かれている。
この茶屋は、大きな広葉樹のもとに簡易な葦簀(よしず)がけで設けられている。木の後ろに標示(ぼうじ)杭(くい)が立っていることと、遠景の宿場との位置関係から見て、宿場の入り口からそう遠くない場所だとわかるが、この絵からだけでは、宿場の西、東のどちらかまでは判断することができない。
手ぬぐいをかぶった女が、石を積んだ竃(かまど)でやかんの湯を沸かしています。やかんを木の枝からつるす様子が珍しいが、似た光景が広重がしばしば種本(たねほん)に用いた『東海道名所図会』や『続膝栗毛』四編口絵などにあることが報告されている。客は二人の駕籠(かご)舁(かき)と、定紋(じょうもん)を染めた腹掛けをした定(じょう)飛脚(びきゃく)の宰領とおぼしき男だ。
駕籠(かご)昇(かき)のひとりは竃の火で煙管を吸い付け、いまひとりは駕籠にもたれてうたた寝をしている。
こうしたくつろぐ人々の姿を画面左手前に置き、右手遠景に小さく宿場の家並みとその周辺に広がる雛(ひな)びた田園風景を望んで、深い奥行きを出すとともにのどかな情景を演出したところに、広重の絵づくりの巧みさが見て取れる。
近くの立札に羽根を休める鶺鴒(せきれい)のような小鳥の姿も、絵ののんびりとした風情を高めるのに効果を上げている。
なお、この東京国立博物館所蔵のものは地面や手前の草原が若草色に摺られ、道ばたの草もいま萌えだしたかのように見える。ただ、少数ながら、地面のみを茶色で摺って冬枯れのような感じを出したものもある。刈り取った田圃(たんぼ)や稲叢(いなむら)からすると季節は秋か冬のようにも見えるが、はたしてどちらが本来広重が意図していた色なのだろうか。